近年食品業界に安全性や健全面を管理するHACCPの導入が進み、従来の殺菌方法として
薬剤、熱、紫外線を用いた処理が改めて見直され、オゾンによる殺菌が数多く採用されはじ
ました。平成7年5月厚生省が食品衛生法を改正し、法律第101号によりオゾンを殺菌消毒
として認可し、この流れに大きく拍車をかけました。
オゾンは原料が酸素で原料費がいらず、処理後は再び無害な酸素に戻るため環境にやさし
い殺菌剤としての利点はありますが、酸化作用が激しく対象物を傷付けるなど、その使用方
が難しい欠点をもっていました。
 
一方、マイナスイオンのもつ殺菌性は、各社の実験結果によれば、微生物の増殖を防止で
きる程度の静菌能力しかないと報告されており、処理を停止すると増殖抑制効果がたちまち
消失し、殺菌剤としての使用には適さないと考えられていました。
 
この両者を組合せることにより、両方の長短所を生かしあって、処理対象物を変質させずに
殺菌効果を挙げる方法が開発され、最近のオゾン業界の注目を集めています。
 
オゾンについては、高いレベルの解析が進み、殆んどの技術者に理解されていますが、マイ
ナスイオンについては、実機に採用されはじめてから日も浅い為か、不明な点も多いので、
ごく常識的なことから説明させていただきます。
マイナスイオンについて


空気中で生成される負イオン(negative air ion)は、次式に示すように、電子が中性分子ま
たは原子に衝突し、そのまま電子が付着したものです。
e-+M→M-{M:中性分子・原子}
 
電子が付着可能な原子・分子は酸素、水蒸気、ハロゲンや、六フッ化イオウなどに限られ、
これらを含む気体は負イオン化されやすいといえます。
大気中において自然に生成する負イオンについては、理論と実験が合わない点も多く、その
生成機構についても定説となっているものはありませんが、現段階では大気中のマイナスイ
オンは、
・O2- ・ (H2O)n もしくは CO4- ・ (H2O)n として存在すると考えられています。
・O2- (スーパーオキシドイオン)は、不対電子をもつ遊離基(フリーラジカル)で、非常に反応
性の強い不安定な物質です。空気中に浮遊する菌や臭気などの有機化合物とマイナスイオン
が接触すると緩慢な酸化作用をおこし、オゾンと比べかなりの時間がかかりますが、ウイルス
などの場合は、まず表面たんぱく質を変質させて殺菌します。
 
一方、大気付近のH2Oを含む空気中で負極性直流コロナ放電を起こした場合、負イオンとし
てO-、OH-、NO3-、CO3-が検出されたという報告もありまた、空気中で交流コロナ放電を起こ
した場合、H3O+、H(H2O)2+、H(H2O)3+などの数種類の正イオンとO-、O2-、NO2-、NO3-、CO3-
などの数種類の負イオンが検出されたことが学会に報告されています。
また、マイナスイオン発生装置は、針と平板の網電極に直流高電圧を印加するので、クローン
作用に伴う集塵効果も期待できます。

放電によるイオンの発生

  
空気中でイオンを発生させる方法には、主に以下に示す6つの方法があります。
        1.宇宙線、紫外線による空気の電離
        2.地表の放射性物質からの放射線による電気の電離
        3.大気中の放電現象による空気の電離
        4.燃焼、灼熱物体表面の電離、熱電子放射
        5.光電効果による光電子放射
        6.水滴の分離に伴うレナード効果による空気の帯電


この中で、負イオンを効率的に発生する方法として、
最も一般的にもちいられているのが放電による方
法です。
放電による負イオンの発生原理を右図に示します。
針と平板を電極とし、針電極に高電圧を印加する
と針先近傍では正・負両イオンができます。
このとき、針電極に印加する高電圧が負極性であ
れば、正イオンは針電極に直ちに吸収されて消滅
し、一方、負イオンは平板電極に向って移動します
が、正イオンに比べて行路が長いため、平板電極
に吸収される前に、送風機により一部を強制的に
外部の空間へ取り出し、利用することが出来ます。


大気中のイオン密度


米国オゾン学会で発表されたデータでは、20世紀の初頭、大気中のイオンバランスはプラス
イオン1 に対し、マイナスイオンが1.2の割合でした。
現代の大気の状態は、プラスイオンが1.2に対しマイナスイオンが1 という割合に変り、近代
文明が成熟した結果、主として電子機器の電磁波などの影響で100年の間にイオンバランス
が逆転してしまいました。
最近の身近な環境に於ける平均的なマイナスイオンの量は下表の通りです。

大気中のイオン密度分布


負イオン密度(個/t) 正イオン密度(個/t)
山間地 692 670
郊外 230 240
都内 101 150
地下室 117 279
船(機関室) 30 400
事務室 38 43
郊外の居住 114 170
工場 53 73

各処理における殺菌効果の比較


鉄さびなどにみられる酸化現象は、原子レベルからみると,原子核の周りを回っているマイナ
スの電荷をもつ電子が奪われ、物質はさびていきます。
プラスサイドに傾きやすい環境をくいとめる方法を、一般的にスカベンジャーといい、マイナ
スイオンの具体的効果については、谷村泰宏氏(三菱電機叶謦[技術研究所)の発表によ
れば、人体に殆んど影響を与えない低濃度オゾンとマイナスイオンの組合せによって画期
的な殺菌が可能なことが判明したと報告しています。
これらの実験結果を下記しますので御一読下さい。

1) 負イオン+オゾン混合ガスによる黄色ブドウ球菌の殺菌について
黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureus (IFO 3060) に対する負イオンとオゾンの混合ガス
に対する影響を調べた。実験は温度20℃、湿度約90%の条件で3日間連続処理した。
それぞれの殺菌率を比較すると、負イオンとオゾンを混合した場合の殺菌率は約94%となり、
0.1ppmのオゾン処理とほぼ同程度の殺菌率(99%)となった。これは負イオン単独処理あ
るいはオゾン単独処理(0.05ppm)の殺菌率のほぼ10倍の殺菌率であり、負イオンとオゾン
を混合することにより、殺菌能力を増大できることが明らかになった。
 
各処理における殺菌効果の比較

処理方式 処理濃度 殺菌率(%) 殺菌率の相対値(−)
オゾン処理 0.05ppm 9.3 1
0.1ppm
99.9

1
負イオン処理 10⁶ions/cm³ 9.8 1 0.1
負イオン+オゾン 0.03ppm,10⁶ions/cm³ 93.7 10.1 0.94

                         使用菌体:黄色ブドウ球菌(食中毒菌)
                         処理日数:3日間
                         処理温度:20℃


混合ガスによる大腸菌の殺菌について


2) 混合ガスによる大腸菌の殺菌について
実験には大腸菌 Escehrichia coli K12(IFO 3301)を用い、温度20℃、湿度約90%の環境
条件で5時間連続処理した。
負イオン濃度106ions/cm3とオゾン濃度0.03ppmの混合ガス処理、負イオン濃度106ions/cm3
の負イオン単独処理、及びオゾン濃度0.05ppmならびに0.1ppmのオゾン単独処理の殺菌効
果の違いを比較したものである。(処理日数:2日間)。混合ガスでの殺菌率は100%となり、
0.1ppmのオゾン処理と同じであった。この殺菌率は負イオン単独処理のほぼ1.7倍、
0.05ppmのオゾン処理のほぼ7倍であることから、大腸菌に対しても負イオンとオゾンの混合
ガスで処理することにより殺菌率を増大できることが明らかになった。

大腸菌における殺菌効果の比較

処理方式 処理濃度 殺菌率(%) 殺菌率の相対値(−)
オゾン処理 0.05ppm 14.4 1
0.1ppm
100

1
負イオン処理 10⁶ions/cm³ 58.5 4 0.6
負イオン+オゾン 0.03ppm,10⁶ions/cm³ 100 7 1

                        使用菌体:大腸菌
                        処理日数:2日間
                        処理温度:20℃

混合ガスによる大腸菌の殺菌について

以上のように、負イオンとオゾンの混合ガスによる殺菌技術は、食品自体には影響を与えず
に食品表面での微生物増殖を抑制できるので、冷蔵庫システムと組み合わせることにより新
しい食品保存システムとして利用できます。また、この新しい殺菌技術は、使用オゾン濃度が
通常のオゾン殺菌よりも大巾に低くすることが可能で、人体に対しより安全な領域であるため、
活性酸素による危険を回避出来、特に抵抗力の少い方々の多い老人施設や病院などの院
内感染の予防や脱臭についても格段の効果が期待出来ます。
                                                  以  上



<参考文献>
1) 食品と開発,32,5,24〜30(1997).
2) 内藤茂三:日食工誌,38,4,133(1991).
3) H.MITSUDA,et al.:Proc.Japan Acad.,66(B),4,68〜72(1990).
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5) 太田幸治他:静電気学会誌,20,1,42〜48(1996).
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7) 谷村康宏他:防菌防黴,25,11,625〜631(1997).
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9) 武田進:気体放電の基礎,pp57〜63,東京電機大学出版局,東京(1990).
10) 武田進:気体放電の基礎,pp45〜46,東京電機大学出版局,東京(1990).
11) 静電気学会:静電気ハンドブック,pp316〜317,オーム社,東京(1992).
12) B.Gravendeel,F.J.de Hoog: J.Phys. B: At. Mol. Phys., 20,6337(1987).
13) T. OHMI:Microcontamination, 8,5,106(1990).
14) 前園一郎:第1回日本オゾン協会年次研究講演会講演集,136〜139(1992).
15) 谷村泰宏:殺菌−負イオンとオゾンの混合ガスによる食品の保存.


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